過去のお話 その参 右腎臓
今思えばほとんど一瞬の出来事だったが、その時は永遠のような長さを感じていました。
大丈夫、なんでもない。
その言葉を心の中で繰り返し、ただ診察室への案内を待っていた。
・・・そして
「○○さん○○○診察室にお入りください」
やっと呼ばれた、足早に言われた診察室前に来て、一呼吸おいて中に入った。
「お待たせしました」
医師がそう言ってくれた言葉にかぶせるように
「検査結果はどうでした?」
と聞き返していた。
医師はこちらをと言いCTの画像へと視線を導いてくれた。
そして反転した画像だと言う事を述べた上で
「右腎臓に8センチを超える腫瘍があります」
そう告げられた。
一瞬で頭の中がざわざわして、次の言葉に困っていると
「今日御家族は?」
という問いかけに
「いえ、今日は一人で来ました・・・先生、どれくらい僕は生きられるんですが?」
その言葉は用意していた言葉でもなく突然でた、そしてその瞬間涙がでました。
もう、明日はこないのかも知れない
家族と離れ離れになるかも知れない
一気に死ぬという今まで自分の人生でまだまだ先にでてくるであろう結末が目の前に
やってきていて、涙が止まりませんでした。
「妻と子供がいるんです、子供はまだ小学生で僕が必要なんです」
そう言うと医師は
「大丈夫、手術できます、生きられますよ」
その言葉は気休めだったけど、崖を転がり落ちる時につかんだ一本の縄でした。
その後は看護婦さんを含め手術日の手配たら、入院前にすることや、今日帰ってからのことを話し合い、色々書類を渡された上で病院を後にする事になった。
「もしかしたら。破裂して大量出血する可能性もある」
と恐ろしい言葉を聞いたあとで・・・
足がおぼつかない状態で病院をでて、駐車場の車に向かった。
そして書類をまとめようとするんだが、まとめられなかった、気持ちが動転して
やる事がわからない。
妻に電話を
スマホの電源をいれると待ち受け画面の妻と子は微笑ましく観光地でいつものポーズを
とっていた。
写真を撮るときはいつもそのポーズになる。
妻は電話にすぐ出てくれた。
いつもの妻の声があせりに変わったけど、すぐいつもの口調で
「とりあえず、帰っておいで」
そう言われて、あたりが暗くなりかけてるのに気付いた。
帰ろう、生きるために家族と相談しよう。
まだ死ねない
そうして家に帰りました。